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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)173号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、以下に説示するとおり、本願考案は原出願の明細書及び図面に記載されておらず、かつ、自明な事項でもない構成を要旨とするものである旨の誤つた認定をした結果、本件出願は原出願の出願時にしたものとはいえないとの誤つた判断をし、ひいて、本願考案をもつて第一引用例及び第二引用例記載の考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取消しを免れない。

前記本願考案の要旨及び成立に争いのない甲第七号証(昭和五七年四月一六日付手続補正書)によれば、本願考案は、取付板の前面に設けた一対の開閉片間に入る玉により該開閉片を起立したり、又は逆八字形に傾動させて入賞の可能性を変化させるようにした変動セーフ玉受口器に関し、更に詳しく述べれば、他の入賞口に入つて遊技盤の裏面に流れ出る玉によつても、開閉片の傾動を生じさせることができるようにした変動セーフ玉受口器における開動装置に関するものであるところ、従来、変動セーフ玉受口器を遊技盤面に取り付けてなるパチンコ機では、遊技盤の裏面に他の入賞口より入つた玉の重量により作動する連動部材を設け、これの垂直作動杆をセーフ玉受口器の裏側の案内箱の開口上面から揺動杆の後端上方に押圧可能に臨ませることにより、他の入賞口に玉が入つた場合でも、開閉片の傾動を生じさせるようにして、遊技者に有利を与えるようにし、ゲームの興味を倍加させることが行われているが、この場合に作動杆の先端部が案内箱内での玉の流れを阻害する欠点があるとともに、垂直作動杆の下端部が案内箱内に臨んでいるので、セーフ玉受口器だけを遊技盤から取り外す場合の邪魔になり、取外し及び取付けは連動部材等と同時でなければならないため、組立て及び修理が行いにくいという欠点があつたから、この欠点を解消すべく、案内箱の流出開口が設けられた側壁の反対側の側壁に切欠を形成するとともに、揺動杆の後部に前記切欠から外方に突出する作動突片を設け、他の入賞口に入つた玉が該作動突片に作用するように構成することにより、開閉片の傾動を容易に生じさせるとともに、案内箱内に入つた玉の流れを阻害する従来の欠点を確実に回避して、その作動を円滑ならしめるようにすることとして、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の項の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これによつて所期の効果を奏するものであることが認められる。

他方、成立に争いのない甲第二号証(原出願の実用新案登録願書並びに添附の明細書及び図面)によれば、原出願の明細書及び図面記載の考案は、パチンコ機の遊技盤面上において適所に設けた複数の入賞装置を同時に作動させて行わしめる作動装置を提供することにあるところ、従来の入賞装置においては、球の自重により一個の入賞装置のみ作動させて入賞球としていたが、この従来の入賞装置より興味を倍加させることを目的として、「球転流杆2と連杆8、屈曲片9を一体に構成し、屈曲片9には入賞装置作動杆3の一端を載置し、他端を入賞装置11´の揺動杆15´の後端部19´に載置して、入賞球Aにより球転流杆2、連杆8、屈曲片9、入賞装置作動杆3及び揺動杆15´を関連的に同時に作動させることを特徴とするパチンコ機における複数入賞装置の同時作動装置。」(実用新案登録請求の範囲の項の記載に同じ。)の構成を採用し、これによつて所期の目的を達成したものであることが認められ、右認定の事実によると、原出願の明細書及び図面記載の考案は、明示的には、本願考案の「案内箱の一側壁に玉の流出開口を設けると共にその反対側の側壁に切欠を形成し該切欠から前記揺動杆の後部に突設した作動突片を外方に突出させて」なる構成をその要件とするものではないが、前掲甲第二号証によると、原出願の明細書の考案の詳細な説明には、「10は入賞装置11´の框体12´を嵌装する切込である。13、13´は入賞装置11に開閉自在に設けた開閉片であつて、14は入賞球、15は支軸16によつて上下に揺動自在な揺動杆である。そして開閉片13、13´は下方において入賞球14により開放を妨げられ、閉止状態となつており入賞球14は揺動杆15の先端部17によつて景品球放出装置(図示せず)への流出を阻止されている。」(甲第二号証の原出願の明細書第二頁第一七行ないし第三頁第四行)と記載されていることが認められ、右記載内容及び前掲甲第二号証の図面中第3図ないし第6図の図示するところに成立に争いのない甲第九号証(昭和四四年出願公告第三三七三号特許公報)及び第一〇号証(昭和四五年出願公告第二四九九四号実用新案公報)を総合考察すれば、原出願の明細書及び図面記載の入賞装置は、原出願の出願日前において周知の開閉片付セーフ玉受口器を使用していることが明らかであり、右甲第九号証及び第一〇号証によると、この周知の開閉片付セーフ玉受口器においては、開放状態の開閉片間に入賞球が入ると、入賞球は開閉片を起立状態にして揺動杆の先端部に貯留されるが、右起立状態の開閉片間に第二の入賞球が入ると、第二の入賞球は、開閉片の中間部分より框体に入り、揺動杆の上を転動してその重量により揺動杆の先端部をはね上げて貯留していた第一の入賞球を落下させ、開閉片を傾動させて開放状態にし、この開放状態の開閉片間に入賞球が入ると、再び右と同様の作用を繰り返すものであつて、揺動杆を転動した第二の入賞球は框体より外に出て行くものであるから、框体に入賞球の流出開口が設けられていることが認められるところ、原出願の明細書及び図面記載の入賞装置は、揺動杆の後端部を突出させる側壁側には、入賞装置作動杆が配置されているので、同側壁に入賞球の流出開口を設けることはできず、したがつて、流出開口は、その反対側の側壁か、又は揺動杆の長手方向にある後壁のいずれかに設けるほかはないが、前掲甲第九号証及び第一〇号証によれば、原出願の出願日前においてパチンコ機における入賞球は、取付板の裏面近くで取付板と平行に移送されるのが通例であることが認められるから、入賞球の流出開口は、揺動杆の長手方向にある後壁ではなく、揺動杆の後端部を突出させる側の反対側の側壁に設けられるものと認められ(他に右認定を覆すに足りる証拠はない。)、以上によれば、原出願の明細書及び図面には、本願考察の前記構成要件は明示的には記載されていないけれども、実質的には右構成要件の記載があるものと認めるのが相当である。被告は、原出願の明細書及び図面記載の入賞装置は、傾動した開閉片間に入賞した第一の球によつて平行起立状態にある開閉片間に、第二の球が入賞し、案内箱内の揺動杆を後方へ転動して該球の重量により揺動杆の先端をはね上げて開閉片を傾動させるものではない旨主張するが、原出願の明細書及び図面記載の入賞装置が右の作用を奏する構成のものであることは、前認定のとおりであるから、被告の右主張は、採用することができない。また、被告は、原出願の明細書及び図面記載の入賞装置が案内箱の一側壁に流出開口を設ける必要のあるものであるとしても、右の構成は、原出願の明細書及び図面には記載されておらず、また、その記載から自明な事項であるとも認められない旨主張するが、原出願の明細書及び図面には、右の構成が実質的には記載されているものと認められることは、前説示のとおりであるから、被告の右主張も、採用の限りでない。更に、被告は、本願考案は、入賞玉の流出開口と作動突片を外方に突出させる切欠とを案内箱の相対する側壁に互いに設けることによつて、案内箱を大きくすることで遊技盤裏面のスペースがなくなるおそれもないという効果を奏するようにしたものであるが、このような構成及び効果は、原出願の明細書及び図面からは、自明な事項とは認められず、本願考案は、原出願の明細書及び図面記載の考案とは別異の考案である旨主張するところ、本願考案が右の構成を有することは、前認定のとおりであり、また、前掲甲第七号証によれば、本願考案が右の効果をも奏するものであることが認められるけれども、前掲甲第二号証によると、原出願の願書添附の図面中第5図及び第6図にみられるとおり、原出願の明細書及び図面記載の入賞装置においても、揺動杆を入賞球の重量により傾動させるに十分な後方長さを得るため、揺動杆の軸より後方の長さを案内箱内の全奥行き寸法にわたつて設けていることが認められるから、原出願の明細書及び図面記載の考案も、右の効果を奏することは明らかであつて、原出願の明細書及び図面には、本願考案の右構成及び効果が実質的に記載されているものということができ、したがつて、被告の右主張も、採用するに由ないものといわざるを得ない。更にまた、被告は、原出願の明細書及び図面からは、入賞球の流出開口が作動突片を突出させる切欠を形成した側壁の反対側の側壁にあるか、また、案内箱に球は落ちるものの、その球が実際にどこから流出するかは全く不明であるから、流出開口が原出願の明細書及び図面記載の考案に不可欠な構成であるとの理由だけでは、その構成が原出願の明細書及び図面に記載された事項の範囲内に含まれているとはいえない旨主張するが、前説示によれば、原出願の明細書及び図面には、入賞球の流出開口が作動突片を突出させる切欠を形成した側壁の反対側の側壁にあるとの明示の記載はないけれども、原出願の明細書及び図面記載の入賞装置においては、その作用からみて、框体に入賞球の流出開口が設けられている必要があり、しかも、右の入賞装置のそのほかの構成上、入賞球の流出開口は、作動突片を突出させる切欠を形成した側壁の反対側の側壁に設けられるものと認められるものであり、この点に前掲甲第九号証及び第一〇号証により認められる流出開口についての右構成が原出願の出願日前より周知の技術であつたことを総合すると、原出願の明細書及び図面に右の構成が明記されていなくとも、当業者であれば、原出願の明細書及び図面には、右の構成が記載してあることを容易に読み取り得るものというべきである。したがつて、被告の右主張もまた、採用することができない。

以上によれば、原出願は本願考案を包含するものであつて、本件出願は原出願の出願時にしたものとみなされるのであるから、これに反する本件審決は、その認定判断を誤つたものであり、ひいて、右の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。

(結語)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。

〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

取付板の前面に平行起立および逆八字形傾動自在な一対の開閉片を軸着すると共に前記取付板の後面に案内箱を固設し、該案内箱内に入つた玉の重量により先端をはね上げて前記開閉片を傾動させる揺動杆を該案内箱内に軸着し、さらに案内箱の一側壁に玉の流出開口を設けると共にその反対側の側壁に切欠を形成し該切欠から前記揺動杆の後部に突設した作動突片を外方に突出させてなることを特徴とする変動セーフ玉受口器における開動装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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